タメ息を袋に集める

ナナメのススメ

右足だけが短い!

男はようやくその事に気付いた。
師走の交差点、人混みの様子が何かおかしい。
その何かが分からなくて、
男は佇んでいたのだが、
自分の足下を見たとき、男は気付いた。

こいつらだけじゃない。
俺もだ。俺も右足が短い!
右足だけが、短い。

人混みが微妙に傾いていた。
ビルも、信号機も、カーネルサンダースも、
みんな微妙にナナメになっている。

それに気付かなかったのは、なるほど、
俺だ。俺もまた、ナナメになっているんだ。
ナナメになってナナメを見れば、
そりゃ普通に見えるわけだ。
それじゃあ、ムリもない。
なかなか気付かないのもムリもない。

街中がナナメだった。
誰もが思い通りの目的地へ行けずに、
軌道修正を余儀なくされた。
ある者はコースを逸れたことに気付かないし、
ある者は同じ所をグルグルと、グルグルと回っていた。

そうだろう、だってみんな、自分の歪みに気付いてないんだから。
だってみんな、世界の間違いに気付いてないんだから。
いかん! こんな事ではいかん!
いけないのだ!

男はぐっと片足に力を込めて、
ナナメの引力に逆らって、
精一杯の水平を保ちながら、
交差点の真ん中で叫んだ。

ご通行中のナナメの皆さん!
おかしいとは思いませんか!

すると一斉にナナメの皆さんが男を見る。
口々に男にかける罵詈雑言。
「おかしいぞ!」
「ナナメになってるぞ!」
「ふざけるな!」

そして俺は気付いた。
そうか、こいつらから見れば、
俺がナナメなんだ。
世界に逆らってるのは俺の方なんだ。

しかし、男はそれで諦めない。
人々の嘲笑を聞きながら、
それでも怯まずに叫び続ける。

素晴らしい! 素晴らしい光景ですよ!
皆さん、僕のように、
ナナメになってみませんか?
ナナメになってみませんか?

呆れて立ち去る者。
石を投げてくる者。
面白がって見てる者。
そんな人々に混じって、
若者が一人、
奇抜な服を着た老人が一人、
片足に力を込めた。

その時の、俺の感動を、
俺は忘れない。
俺はナナメになった者達を、
この上なく愛しく感じながら、
今でも交差点の真ん中で、風に吹かれている。
それでも自分は真っ直ぐで、
世界の方がナナメなんだって信じながら。
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by maekawaz | 2004-11-12 06:48 | 詩集
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